言葉について

言葉とは不思議なものである。いつ誰が発明したのかも解らない。ともかく言葉を失えば、人間は再び本能の世界に舞い戻るほかない。生物はほどほどに世界を分節し生きている。幸か不幸か、言葉を獲得した人間はこの生物界を脱して人工(ノモス)的な世界を作った。それにしても言葉とは何か。それはまず音声でしかない。ハという音声にはそれ自体意味はまったくない。ただハを二つ重ねてハハと言えば、それが「母」という概念として現前化されることを、人類はどこかで獲得したのだろう。ひとたび「母」が概念となれば、実際に母がいようがいまいが、「母」という言葉は独立して用いることができる。そのようにして言葉はつぎつぎに増殖していったのだろう。